タコおた
【タコに魅せられて】
タコおたの彼
あることが目的で聖地・八重洲ブックセンターを訪問した。さすが、聖地。お目当ての専門書が当たり前のように置いてあり、どれを購入すべきかの判断ができた。
今回は店内を回遊して読みたい本を拾うことはしなかったが、特設コーナーで目に付いた本があった。こちらだ。
タコの心身問題って...「頭足類から考える意識の起源」という副題、そしてややグロテスクでありながらもユーモラスなタコのイラストがそそる。というわけで読んでみたのだが、なぜタコにそそられたのか。とあるタコおたの存在がある。
ただいま海外駐在中の同僚がおり、彼は学生時代にタコを研究していた。そしていまはウシやウマを相手にしている。なんとも数奇な人生ではないか(大袈裟か?)。
そんな彼に、それではこれをと貸してあげた本がある。こちらだ。
タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物 (ヒストリカル・スタディーズ10)
- 作者: キャサリン・ハーモン・カレッジ,高瀬素子
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/04/17
- メディア: ペーパーバック
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タコの才能ときた。こちらは紀伊國屋新宿本店で拾ったもので、読んだのは五年ほど前だった。タコおたの彼と飲んだ時にノリで「是非読んで欲しい本がある!」と乾杯しながら約束したのだ。
多くの場合は酒席のことと流してしまいがちだが、本が絡むとそうはいかない私。書棚の奥から引っ張り出してきて律儀にタコおたの彼に貸してあげると、いまこんなぶ厚いタコ本を読んでいるのでその次に是非!と目を輝かせて借りてくれた。いいヤツだ。
後日知ることになるのだが、彼は海外駐在が決まっており、ほどなくアメリカへと旅立っていった。読了してくれた『タコの才能』とお礼のお菓子を残して。
そう、この『タコの心身問題』を見て、アメリカで頑張っているタコおたの同僚を思い出したのだ。副題にある「意識の起源」にも背中を押されて読んでみることにした。思っていた以上に深かった。
これは生物とその進化の本であると同時に、哲学の本でもある。
タコは何のために生きているのか
絶滅してしまった、殻を身にまとう太古の頭足類の子孫であるタコ(とイカ)。一度持った骨格や殻を捨ててしまうのは、このくらいの大きさと複雑さを持った生物では珍しい現象らしい。ちなみに、この類型で殻を維持したまま生き残っているのがオウムガイ。彼については以下の絵本がお勧めだ。
タコに話を戻す。タコは好奇心が強く、順応性があり、冒険心も持ち合わせる。日和見主義なところもあり、社会性が高いわけではない。誰と交尾するかわからない乱婚の動物でもある。そんなタコの特徴における驚くべき事実は、その寿命だ。
なんと、タコはわずか一〜二年しか生きないのだ。この短い寿命にも拘らず、神経系を持つなどコストが高くつく機能に多大な投資をしている。学習したことを活かす十分な時間がないにも拘らず。タコは何のために生きているのか。タコはギュッと凝縮された人生ならぬタコ生を謳歌しているのだろうか。
副題にある「意識の起源」という点についてぐっと刺さる箇所はなかったものの、私の同僚であるタコおたの彼のように、タコに魅せられてしまうのは分かる気がした。純粋にタコを楽しむならば『タコの才能』をお勧めしたいが、より深く入っていくなら『タコの心身問題』の方が良いかもしれない。
今回の雑感
著者のピーター・ゴドフリー=スミスの専門は生物哲学、そしてスキューバダイビングの熟練者。そのフィールドワークとも言うべき海の中での活動も本書の読みどころだ。
それにしても、裏表紙折り返しの著者近影がアニメ「スポンジ・ボブ」のイカルド(イカではなくタコ)に見えて仕方がない。ご興味がある方は是非(イカルドをご存知ない方は以下のリンクでどうぞ)。もちろん、著者近影だけではなく本編も味わってもらえると嬉しい。