本と酒があれば、人生何とかやっていける

読んだ本の感想や気付きを中心に、雑感をつらつらと綴っていきます

デジタル疲れという感覚がわからない

【小売りは不滅なのである】

デジタルネイティブとは感覚が異なる?

先週金曜日の日本経済新聞朝刊で「デジタル疲れ、実店舗復活か」という記事が目に留まった。オワコンと揶揄されていたブックオフが、メルカリの台頭で押し上げられた中古市場で恩恵を受けているというものだ。商品発送などの個人間取引の手間を嫌い、ネットからリアルの店舗に回帰する消費者が増えているのだという。

 

メルカリなど触れたこともなく、個人間取引に疲弊したことなどない私にとっては「ふ〜ん」という内容だった。デジタル疲れねぇ。便利だからネットを使うのであって、何がなんでもネットでなければならないというわけではない。この辺りはデジタルネイティブとは感覚が異なるのだろうか。ちょうど読んでいた関連する面白い本を紹介したい。

 

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

 

 
感覚が理解できない

リアルの店舗はネットの世界に駆逐されていくのか?本書を読んで「その程度なのか」と思ったことがある。世界の小売市場におけるネット通販の割合だ。裏を取らずにそのまま引用してしまうが、2019年で7.4%を占め、2020年までにはアマゾン、アリババ、イーベイの三社で世界のネット通販市場の約40%を占める見通しなのだそうだ。

 

もっとネットの世界に駆逐されていると思っていたし、大アマゾンのシェアはもっと恐るべき数字になっていると思っていた。この数字を見ただけで、私などはリアルの店舗が駆逐される心配はないなと思ってしまうし、実際に現物や現場を見て買わないという感覚がそもそも理解できない(もちろん買う物による)。

 

出逢いを求める

私がネットで買うのは本くらいだろうか。ちなみに、中古の本を買うことには若干のためらいがある。実際、この値段でこの状態はないだろう!?と思ったのでクレームしたことがある(誠にもって丁寧な対応をしてくれたので安心したのだが)。

 

何事もそうであるが、ネットは指名買い、リアルの店舗では出逢いを求めるという感覚がある。オンラインの古書店であれば、欲しい本があり、それなりの値段だったら中古で買い求める場合があるし、リアルの店舗にいけば「お、この本が落ちてきたか」と手に入れる場合もある。


水着を忘れずに!?

紹介した『小売再生』の副題は「リアル店舗はメディアになる」だ。

 

あらゆる販売拠点や販売チャネルでの販売促進につながるような効果的な体験空間づくりこそ、店舗のゴールになる。

 

著者が指摘する限り、メディアとしての店舗を完全に具現化している小売業者は一つもないが、そこに向けて進化している企業はいくつかあるという。その中でも目を引いたのがパーチという会社だ。理想を追い求めた家を建てようとしていた創業者が、ホームセンターのあまりにもひどい対応に業を煮やして立ち上げた小売店だ。

 

キッチン、浴室、トイレ、アウトドア用品に特化しており、例えばプロのシェフと一緒に料理してみることができる。面白いと思ったのが「水着を忘れずに」という謳い文句。水着を持参すれば店舗でシャワーを浴びることもできる。だって、どうやって使うのかわからないのにシャワーヘッドを選びますか?と創業者はこともなげに話すという。

 

さらに進んで、店舗における物品の売買ではなく、店舗内で収集される「消費者データ」をメーカーに販売することを収益源としている会社も紹介されていた。本書の副題である「リアル店舗がメディアになる」を体現している好例で極めて興味深かった。

 

今回の雑感

この本は、テクノロジー分野の投資家として知られているマーク・アンドリーセンの「もう小売店は店をたたむしかないでしょう。みんなネットで買い物をすませるようになりますから」という予言から始まっている。マークの戯言などくそくらえだ。

 

著者が「これが小売の未来である。サングラスが必要なほど明るい未来ではないか。」という言葉の通り、リアルの店舗がなくなるなどということは考えられない。小売は不滅なのである。デジタルなどくそくらえだ、とは言わないものの、すべてをデジタルに置き換えるなどとても考えられない。

 

デジタル疲れという言葉にピンとこないおじさんは、小売の未来がお先真っ暗などとはまったく思わないのである。著者な指摘するように敵はアマゾンではなく常識なのだろう。それも、歪められた常識なのだろう。