本と酒があれば、人生何とかやっていける

読んだ本の感想や気付きを中心に、雑感をつらつらと綴っていきます

読みたい本をどのように拾うか

【資源が枯渇することのない永遠の漁場】

Instagram

バツイチの精神科医・榊、彼が担当することになった十七歳の少女・亜左美、そして臨床心理士の由起。三人の男女を中心に物語が進んでいく。それとは別に、ある疑惑を追い掛ける国立博物館の職員・江馬遥子の物語も並行して進んでいき、次第に二つの物語が近付いていく。

 

症例A (角川文庫)

症例A (角川文庫)

 

 

読みたいと思う本を拾う場所は数多くある。そのうちの一つがInstagram。"ばえる"写真であるかどうかはさておき、私にとっては読みたい本を収穫する大切な漁場。そう、こちらはInstagramで拾った一冊だ。

 

解離性同一性障害

信頼できる読み手がポストしている本なので間違いない。そう思って読み始めたが、まさかの事態が発生した。想定以上にはまってしまったのだ。ここまで本にのめり込んだのは久し振りだった。物語とほぼ真ん中に位置する全体の1/5を占める分量の章(と表現しておく)を越してからは止まらなくなってしまい、一気読みした。

 

文庫本の裏表紙にあるのでネタバレにはならないと判断して書くが、本書を貫くテーマは「解離性同一性障害」だ(誰もが知っている別名がある)。現在の医療現場での扱いは分からないが、この障害がこのように捉えられていたのかという驚きがあった。この辺りは榊と由起とのやり取りになる。巻末に列記されている参考文献から読み取れるが、著者はこの障害について良く勉強しており、分かりやすく説明されている。

 

リアルな描写

Amazonなどで読了後の感想を読むと、江馬遥子の物語は蛇足だという指摘もあるが、私はこれはこれであって良いと思った。もしこの物語がないと、"あの辺り"が綺麗に落ちないのではないかと思ったからだ。

 

しかし、何と言っても本書の読みどころは、上に挙げた障害に関する榊と由起との、つばぜり合いとでも表現したいやり取りだ。この辺りは文庫本で解説を寄稿している信田さよ子氏が以下のように綴っている。

 

「ひょっとしてこの作者はひそかに我々の業界に潜入していたのではないか」と疑ってしまったほどだ。

 

そう感じるまでに、臨床心理士信田さよ子氏の立場)と精神科医との微妙な関係が丹念に描かれており、患者をめぐる意見の相違やこの世界独特の権威構造などがリアルに描写されているという。

 

今回の雑感

最近読んだ本で何がおもしろかった?と聞かれたら、この『症例A』を挙げるだろう。物語の続きがとても気になるところだが、著者の多島斗志之は失踪して音信不通だという。何とも残念だが、別の著作を取り寄せたのでそちらも堪能したい。

 

本書を読んで改めて思った。本の世界は奥が深い、奥行きがあると。この本は私の視野外にあったものだ。そして決して新しい作品ではない。まだまだ私の知らない読み応えのある本があることを心から嬉しく思った。

 

読みたい本をどのように拾うか。これは人それぞれだが、現在のところ私の中ではInstagramに勝るものはない。肝はやはりその一覧性だろう。私にとっての"ばえる"画像をフォローしている皆さんが次々と上げてくれるのだから本当にありがたい。

 

それもこれも、信頼するに足る読み手と繋がっているからこそ。Instagramはこれからも私の大切な漁場であり続ける。しかも、資源(本)が枯渇することのない永遠の漁場だ。