本と酒があれば、人生何とかやっていける

読んだ本の感想や気付きを中心に、雑感をつらつらと綴っていきます

これもまた、読書の楽しみ

【読むという行為以外でも楽しむことができる】

本の質を上げていく

日本経済新聞でこのような記事を見つけた。

 

「誤記や捏造・・・揺らぐ出版」

 

最終面「文化」欄の記事だ。刊行数の増加に伴い、きめ細かい編集ができなくなっているというもの。二つの書籍が挙げられており、そのうちの一つはドイツ文学者池内紀の著作で、誤記や史実の誤りも合わせると67項目もの訂正が付いたのだという。

 

私もそれなりに本は読んでいるので、誤記や誤字や誤植を見つけることがある。出版社にメールで連絡してみたこともあるのだが、何の返信もなく見事にスルーされた。まぁ、皆さん忙しいのだろう。

 

記事には「以前は出版社から2回の校正作業を依頼されていたが、最近は初校だけという仕事が増えてきた」という校正会社の声も紹介されている。これは単なる経費削減にしか感じられず、本の質が揺らいでいることが垣間見えるものだった。

 

一方、査読や事実確認に「読者」も加えるべきという識者の声もあり、うんうんそうだ、あの時は見事にスルーしやがってと頷いてしまった。あらゆる角度から本の質を上げていくことは必要だ。私にとって大事な世界なので力になれることがあれば協力したい。

 

中国発のSF小説

さて、話はがらっと変えてこちら。

 

三体

三体

 

 

中国発のSF小説『三体』、話題の一冊だ。私はSFが苦手。挑戦しては玉砕することを繰り返している。嫌いではないのでつい手に取ってしまう。SFはそれなりの科学的知見があるとより楽しめるのだが、私にはその土台が乏しいので多くはその世界観に戸惑うことになる。さて、この『三体』はどうだったかというと...

 

評価は保留したい。なぜか。それはこの作品が三部作であり(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)、この『三体』はまさにこれからという時に終わってしまうからだ。この文脈から理解頂けると思うが、つまり早く次が読みたいということで、評価は保留と言いながら楽しめていることに間違いはない。

 

悶々としている

毎度のことながら、ネタバレも恐れずにおしり読み(あとがきや解説から読む)した。訳者にはSF界の大家である大森望が名前を連ねている。おお、この人は中国語も操るのかと思いきや、何と二名の訳者による中国語から日本語への翻訳を、大森望が日本語から日本語へ「SFに翻訳」したのだという。他の仕事は放り出して取り組んだというから、凄まじい熱の入れようだ。

 

この小説がいかに凄いものであるかは、大森望の訳者あとがきを読めばわかる。原著の発行部数は2019年5月時点で2,100万部(三部作合計)というから驚きだ。世界最大のSF賞と言われるヒューゴー賞の長篇部門を受賞。英語以外で書かれた作品が受賞したのは史上初というからこれまたすごい。

 

テーマは異星文明との接触。繰り返しになるが、さぁこれからというところで終わってしまうので、早く次を読ませてくれと悶々としている。第二部『黒暗森林』は来年刊行予定だそうだ。大森さん、頑張ってくれ。

 

今回の雑感

さて、ここで冒頭に触れた話に戻る。がっかりしたり、少し嬉しくなってしまったり、その両方を行ったり来たりすることになるのが誤記などを発見した時。あったぞ、『三体』にも(笑)

 

「暗黒の森を通して、不気味な炎に照らされた血の滴るピラミッドが見える。わたしのイメージははそんな感じ」

 

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ま、しょうもないところだが、おお、誤記だ(!)と喜んでしまった。これもまた、読書の楽しみ。これだけの話題作なので既に早川書房には連絡はいっているだろう。書店で本書を手に取る度に、何刷になっているか、そしてこの箇所が修正されているかを確認することになりそうだ。そう、読むという行為以外でも楽しむことができる。これもまた、読書の楽しみなのだ。