〈本〉『アレクサ vs シリ ボイスコンピューティングの未来』
【シリは腐ってもシリなのか】
現在とこれからの展望
表紙を飾る、四つのボイスコンピューティングの雄。この世界の覇者となるのは「誰」なのか。
Amazon Alexa
Google Assistant
Apple Siri
Microsoft Cortana
私がかろうじて知っていたのは、タイトルになっているアレクサとシリだけ。会話したことがあるのは(と表現しても差し支えないだろうか)シリだけだ。スマホがiPhoneなので、一時英語の勉強に使っていた。
このようなおぢさんでも、このタイトルは興味を惹くのに十分な破壊力があった。アレクサを知っているのはアマゾンの熱心なテレビコマーシャルのおかげだろう。ボイスコンピューティングの現在とこれからの展望を覗いてみた。
何に結び付けるか
結論としては、ボイスコンピューティングの世界で圧倒的ナンバーワンはアマゾンのアレクサということになる。グーグルアシスタントも健闘しているようだが、以下が両者を分け隔てる決定的な違いになるようだ。
グーグルとアマゾンがトップ2なのはわかった。次に、彼らの可能性を評価する最善の方法は、それぞれが音声からどうやって収益をあげようとしているかを見ることだ。
そこが決定的になるのか否か私には分からないが「まぁ、そうだろうな」と思うことが結論付けられている。アマゾンが熱心にコマーシャルしている世界だ。
音声で収益を上げる最大のチャンスはショッピングかもしれない。これは明らかにアマゾンにとって有利だ。
最終的に「何に結び付けるか」ということの絵が描けていないと、単なる高度な技術に終わってしまうのだろう。シリのように?
シリはこのまま?
これだけ見ると、おいおいタイトルが間違えているんじゃないか!?と思われるかもしれない。私もそう思った。アレクサとグーグルアシスタントとの対決ではないのかと。
シリを持ってきたのは、シリ、というよりもシリの前身となるものがボイスコンピューティングの先駆者だからであろう。また、何だかんだ言いながらシリの知名度は馬鹿にならないからだろう。かのスティーブ・ジョブズが目を付け、追い掛け回してとうとうアップルに取り込み、世に放たれたたシリ。先駆者ならではの苦悩が描かれているところはなかなか読ませる。
アップルがこんな憂き目に遭ったのは、一つには、先駆者のいない市場に、野心的だが未完成の技術で切り込んでいったためだ。
そして、シリとその開発者にとって決定的に不幸だったのは、ジョブズの死。絶対的な力を持つ後援者を失ったシリ開発チームは大混乱に陥り、辞職に追い込まれる人々も出てくるという有様。
アップルはシリにとって、ジョブズが言った「好きなようにできる」場所どころか、刑務所のようになっていった。
何とも無残な描写。シリはこのまま凋落していってしまうのか?
本書の雑感
シリ生誕に関しては前半で書かれており、その後はシリの凋落をよそに幅をきかせるアマゾンとグーグルの話が中心になっていく。やはり、タイトルは『アレクサ vs アシスタント』だったのでは... と思う一方、それでは絵にならないことも良くわかる。
グーグルはグーグルで、アマゾンを共通のライバルとする企業と提携している。ウォルマート、ターゲット、コストコ、コールズなどなど小売りの雄が顔を並べているものの、世の流れからして破壊力が足りない。というよりも、そこにしか行かざるを得ない苦しい事情が見て取れるような気がした。
疎い世界の内実をちらっと垣間見ることができて、なかなか楽しい読書だった。さて、シリはこのまま腐っていくのか、それとと腐ってもシリと言わしめるのか。