〈本〉『美しい距離』
【「今」の大切さを噛み締められることになった】
ただバカ話をしているだけではない
『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』を読んで気になった本が何冊かあったので、すべて読んでみた。読んだ本は以下の通り。先の2冊と後の2冊とでは、随分と雰囲気が異なる。
『もろだしガールズトーク』はこちらでも感想を述べた通り、良い意味で期待を裏切られた一冊だった。前半は期待通りに手を叩いて笑いながら読み、終盤は「むむっ」と独特の哲学に唸らされることになった。ただのバカ話をしているだけではなく、恋愛と結婚についてなかなかに深く考えさせる。ご興味がある方は是非読んでみてほしい。
本が何かを考えさせる
今回は先に挙げた2冊に関する感想を述べたい。両方とも大切な人(妻)を亡くすことになる男性が主人公だ。山崎ナオコーラの『美しい距離』では別れの時がじわじわとやってくる。一方、上野顕太郎の『さよならもいわずに』では突然の別れがやってくる。
展開の違い、小説と漫画、フィクションとノンフィクションといった相違はあるものの、双方の作品を読んで感じたのは「考えなければいけない」ということだった。何を? 妻がこれらの作品で描かれている状態になった時のことをだ。何のために読んだのか、いや読まされたのかというと、どうやらそのことを考えさせられるためだったらしい。
実話であろうがなかろうが、本を読むと何かについて考えさせられる。そうでなければならないと思うし、そういう歳になったということなのかもしれない。
大切な人との距離
当の妻は「70歳まで生きれば十分」などと言う。人生100年時代にこの人は何を言っているのだろう!?と耳を疑った。先になれば考えは変わるかもしれないが、だらだらと長くつまらなく生きるよりは、太く短く楽しく生きたいということなのだろう。
よく考えれば分からなくはない。人生100年時代という言葉に踊らされている自分より、はるかに人生について考えているのかもしれない。100歳どころか、70歳までさえ生きられないかもしれない。妻との「距離」が一瞬にして変わるような出来事が、いつ何時起こるか分からないのだ。
山崎ナオコーラの『美しい距離』は、大切な人との距離について考えさせてくれる、優しい一冊だった。近いということだけが、大切な人との距離感なのだと思っていた私にとって、この物語はとてつもなく優しく感じられた。妻がこの世からいなくなり、遠い存在になった時、なぜ近くに感じる必要があるのだろう。主人公はそう考える。
近いことが素晴らしく、遠いことは悲しいなんて、思い込みかもしれない。遠く離れているからこそ、関係が輝くことだってきっとある。
本書の雑感
主人公たちと同じ立場になった時、どこまで妻との「距離」を混乱せずに受け止めることができるだろうか。さよならもいわずに、妻は突然いなくなってしまうかもしれない。じわじわとした別れの時がやってくるかもしれない。あれをやっておけば良かった、これもやっておけば良かったという後悔は必ずあるだろう。それでも、あれはできたし、これもしてあげられた。そう思えるように一日一日を大切にして生きていくしかない。
遠く離れているからこそ関係が輝いている。そう思えるように。「今」の大切さを噛み締められることになった。良い読書だった。