本と酒があれば、人生何とかやっていける

読んだ本の感想や気付きを中心に、雑感をつらつらと綴っていきます

〈本〉『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

人間は自分に都合の良い情報しか目に入れようとしない

看板は難しい

もの足りなかった。これが読了後の本音。これは期待と現実のギャップによるものだ。タイトルを見て期待したのは、どんな70人の変人話が聞けて(読めて)、70冊の本からどれくらい読みたいと思える本に出逢えるか、だった。しかしながら、70人の変人と彼らに紐付く本には出逢えなかった。

 

巻末には、本書の中で著者が勧めている本の一覧があるものの、40冊程度(一覧があるのはとても嬉しい)。このことからも分かる通り、70人の変人が出てくるわけではない。そもそも「出会い系」という言葉からして認識のずれがあった。著者が登録した出会い系は「知らない人と30分だけ会って、話してみる」というものであり、我々が一般的に出会い系と聞いて想像するものとは異なるようだ。

 

このあたりの認識のすれ違いが、私の中でこの本の評価を一段落としてしまった。看板は難しい。そう思った。

 

 

著者に会ったことがある

著者の経歴は、ヴィレッジヴァンガード二子玉川 蔦屋家電、パン屋の本屋、HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEと一貫して本に紐付く。

 

実は、著者と言葉を交わしたことがある、かもしれない。パン屋の本屋でだ。これは荒川区にある「ひぐらしベーカリー」というパン屋に隣接する本屋。パン好きの妻に「本屋もあるよ...」とそそのかされて行ったのだ。ここで雇われ店長だった女性と話したことがある。おそらく花田菜々子さん(著者)だろう。花田菜々子で検索すると、しっかり写真が出てくる。うん、そういえばこんな感じの人だった。

 

出逢いはあった

私の中で一段評価が落ちたとは言っても、それはあくまで期待値との落差の話。この本がつまらないということではない。というよりも、おもしろい。想像していた内容との落差で自分の中での評価が落ちるという、私独特の本癖が発動してしまっただけであり、興味深いくだりに惹かれ、おもしろい本や読みたいと思う本との出逢いがあったのは事実だ。

 

これは図書館では借りれんなぁ、というよりもおそらく置いていないだろうと思う本(少なくとも私が利用する図書館には蔵書されていなかった)や、これは読んでみなければと思わされる本との出逢いはあった。本と本とが手を繋ぐ。これぞ読書の醍醐味だ。それぞれの本は以下の通り。どの本が借りれんなぁと思った本かは言わずもがなだろう。

 

もろだしガールズトーク ~アラサー流 愛とエロスと女磨き~

もろだしガールズトーク ~アラサー流 愛とエロスと女磨き~

 

 

 

青春と変態 (ちくま文庫)

青春と変態 (ちくま文庫)

 

 

 

美しい距離

美しい距離

 

 

 

さよならもいわずに (ビームコミックス)

さよならもいわずに (ビームコミックス)

 

 

さすがと思った

参考までに『もろだしガールズ』の紹介文を引用する。さすが、しっかりと読み込んでいる。ちなみに著者がこの本を勧めたのは、大学を卒業して就職したばかりの細くてかわいくて人形のような容姿に快活で気さくな性格を持ち合わせた、という著者いわく最強に素敵な女子だ。そんな女子になぜこの本を勧めたのかは読んでみれば分かる。

 

人前や電車の中では絶対に開けられないが、性を女子の立場から面白おかしく語るその根底には強いフェミニズムがあり、女子が男子からの支配や社会の偏見から逃れ、自分の性を肯定できるように、男性に依存することなく主体的に自分の力で幸せになれるように、という願いがいつも書かれていた。

 

興味深いと思ったこと

「そんな本は、とっくにもう全部知っています」という強敵と対峙した後で著者が考えた、本を勧める際に気を付けようという注意点が参考になった。私は昨年、今年二年目になる新人女子社員のトレーナーになり、毎月一冊本を与えて続けてきた(私たち二人の間ではこれを本ハラ=本ハラスメントと読んでいる)。そして今も続けている。"なぜその人にその本のなのか"という理由付けはしっかり考えなければと改めて思わされた。

 

もう一つ。著者の心を育んだヴィレッジヴァンガードについて。著者は初期から働いていたようだが、本の販売から雑貨の販売へと舵を切っていき、"文化度が低くなっていくことを憂う"など、働いていない社員でないと分からない内実が垣間見えて興味深かった。コアなファンで、本屋としてヴィレッジヴァンガードを見てきた人たちは同じように感じていたのかもしれない。

 

本書の雑感

物足りなかった。そうは言ったものの、十分に楽しめる一冊だった。ただし、誤解を与えかねない看板(タイトル)は残念だった。こんなことを感じるのは私だけかもしれないが、少しだけ騙された気分になった。

 

別に70人の変人を登場させて、70冊の本を開陳することを保証しているわけではない。"すすめまくった1年間のこと"とあるので、良く考えれば主役は著者本人だということが分かる。この自分の行いを見て、あぁ、人間は自分に都合の良い情報しか目に入れようとしないのだ、といことを改めて感じさせられた。

 

看板は難しい。つくづくそう思った。