〈本〉『宇宙授業』
【本棚と向き合えば、手を差し伸べてくれる本がある】
読みたい本は尽きない
何を読めば良いのか分からない。読みたい本が見つからない。たまに目にする耳にする悩みだが、読みたい本が尽きない私にとっては何とも理解が難しい悩みだ。一冊の本を読めばあれもこれもと読みたい本に出逢ってしまう。結果、以前のような「縦」に本を読むことに行き着いてしまった。縦に読むについては以下の投稿をご参考願いたい。
帯状疱疹を経て、読書に対する姿勢を考え直した - 本と酒があれば、人生何とかやっていける
本を読めば、また次の本に。そう、「本と本とが手を繋ぐ。」わけだ。実はこのフレーズは某SNSで繋がっている方から拝借したもの。この言葉の後に「その手に私も手を伸ばす。」と続く。何とも素敵なフレーズで私のお気に入りだ。私も「本は心の栄養です。読書は心の食事です。」というフレーズを掲げていたことはあるが、何百倍も素敵でセンスがある。それに、ぐっと共感する。
やさしい一冊
今回紹介する本は本と本とが手を繋いで再読したもので、夜空に思いを馳せながら読みたい一冊だ。宇宙に対する興味は尽きない。夜空を眺めて「今日は月が大きいな」と感じたことはないだろうか。そのような身近な疑問も含めて、この『宇宙授業』では宇宙の不思議について色々と教えてくれる。一般からの素朴な質問をもとにしているので、とてもやさしい(易しい、そして優しい)内容に仕上がっている。
この本と手を繋いでくれたのはこちら。スティーヴン・ホーキングの遺作となった『ビッグ・クエスチョン』だ。
頭をゴツンとやられた
「神は存在するのか?」から始めとして、人類が抱える10の難問と向き合う一冊だ。スティーヴン・ホーキングが様々な人々から意見を求められてきた難問に対する「答え」をまとめたもの。しかしながら、この本には答えなどなかった。
解説を寄稿している、スティーヴン・ホーキングの長年の友人であり研究仲間だったキップ・ソーンが、本人の死後に捧げた頌徳の辞で次のように述べている。これを読んで頭をゴツンとやられた気分になった。答えだけを求めていた自分が恥ずかしくなったのだ。
ニュートンはわれわれに答えを与えた。ホーキングはわれわれに問いを与えた。そしてホーキングの問いそのものが、数十年先にも問いを与えつづけ、ブレイクスルーを生みつづけるだろう。
思考が止まってしまう時
自分の頭で考える。常に言い聞かせていることのはずなのに、宇宙にまつわることを中心にしたビッグ・クエスチョン(人類の難問)を前にして、思考が停止してしまったのだ。こりゃいかんと反省させられた。
スティーヴン・ホーキングが答えに近いものを出している問いもある。しかしながら、それはあくまでスティーヴン・ホーキングの見解であり、それに否を唱える考えが提示されても何らおかしくない。と言うよりも、自らが「うんうん、そうだ」とか「いやいや、それは違うんじゃないか」と頭を使いながら読まなければならない、とこれまた反省させられた。
とは言いながらも、宇宙のことを中心にした話題を前にして、基本的な知識がないと思考が止まってしまうのもまた事実。そのようなわけで本棚と向き合うことになった。手を伸ばしてきたのが『宇宙授業』だった。
芽生えた関心に手を差し伸べてくれる
例えば「今日は月が大きいな」という疑問にはどう答えているのか。結論は目の錯覚。月の軌道は楕円を描いているので、地球に少し近づく時と離れる時がある。しかしながら、その差はほんの僅かで見かけの大きさはさほど変わらない。ではなぜ大きく見えるのか。
答えは、我々が月を近くにあるものと比べるから。月が空高くに見える時と地平線に近い位置にある時がある。月の位置が低いと我々は木や建物など近くにあるものと比べるので大きく見えてしまう。実際、五円玉から覗くと、空高くの月も地平線に近い月も五円玉の穴の中にすっぽりとおさまるそうだ。とても分かりやすい。
難解な本も何冊か読んできたものの、頭の中に残っていない... 宇宙の「う」から改めて学び始めるには非常に良い本だった。宇宙に対して芽生えた関心に手を差し伸べてくれる一冊だった。
難解な本と言えば
読んだことがある難解な本と言えば、リサ・ランドールの『ワープする宇宙』だ。数式を一切使わずにイラストや自作の短編小説も織り込んでいる、とは言いながらも、やはり難解であることに変わりはない。久し振りに引っ張り出してきたものの、600ページの大作を前にして縦で再読するのはちとしんどいなと脇に置いた。
- 作者: リサ・ランドール,向山信治,塩原通緒
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2007/06/26
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それではリサに申し訳ないので読み直したのがこちら。
- 作者: リサランドール,若田光一,Lisa Randall
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2007/05/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『ワープする宇宙』の要約版、と言ってしまうと言い過ぎなのだが、宇宙飛行士の若田光一さんがリサ・ランドールに問い掛ける対話で構成されているので読みやすい(NHKのBS特集がもとになっている)。解説では『ワープする宇宙』の監訳者である向山信治さんがリサ・ランドールの理論を説明しているが、これもまた簡単ではない。
叱咤激励された
とは言いながらも、100ページに満たないものなので手に取りやすく、次元・重力・相対性理論といった物理学の世界への入口になる本だと思う。私がこの薄い本の中で非常に興味を惹かれ、かつ叱咤激励された若田光一さんの言葉がある。こちらだ。
物理や工学の複雑な事象は、数式を使えば比較的簡単に説明できる場合があります。逆に言えば、数式を使わずに多くの人にそれらを理解してもらうというのは、専門家にとっても非常に難しく、大変な根気と工夫が必要な作業になります。
数式を使わずに宇宙の謎を解説している『ワープする宇宙』は並大抵の熱意で書けるものではない、という文脈なのだが、若田光一さんのような人々にとって目の前の現象を数式を使って説明するのは簡単だが、言葉にしようとすると難しい。そもそも、言葉だけで理解しようとすることはハードルが高いのだ。何が言いたいのか。最低限の数学も勉強しなければ駄目ということだ。今の私には、まだ『宇宙授業』が似つかわしいが...
本書の雑感
多くの本に飛んでしまったが、それだけ一冊の本が様々な本と手を繋ぐ可能性があるということだ。幸いなことに、これまでそれなりの量の本を読んできたので、本棚と向き合えば、手を差し伸べてくれる本がある。今回は『宇宙授業』が手を差し伸べてくれたので、まずはここに書かれていることを説明できるくらいになろう。そして、他に紹介した手を差し伸べてくる本の輪の中で、宇宙遊泳できるように次の一歩を踏み出していこう。